東京高等裁判所 昭和29年(ネ)656号 判決 1955年3月28日
控訴人 小沢邦光 外一四名
被控訴人 小沢彌蔵 外二名
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人等の負担とする。
事実
控訴人等訴訟代理人は「原判決中控訴人等勝訴の部分を除きその余を取消す。被控訴人等の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴人等訴訟代理人において「原審以来主張する事実の釈明として、本件山林につき大正二年頃共有分割したという内容は、当初本件山林(俗に幸四郎沢という)の内番外地を除いた部分を四等分し、当時の共有者二十名が五人づつ一組となり、一組で右四分の一宛を共有することを契約したのであるが、実地にあたつてみると右四等分が困難であることを発見したので、これを二等分し十人一組が、その二分の一宛を共有することに定めたものである。なお被控訴人等の主張によれば、本件山林の地盤は部落の所有であり、入会権者は住民であるというのであるから、その入会権は共有の性質を有しない入会権であり、この場合入会権は、地盤の所有権に対し一種の負担であるから、入会権者の総意によるも、擅に従来の慣習を変更し得ない筋合である。そして若し被控訴人等主張の如く、将来専ら造林計画を実施し久しきを経てこれを継続する以上、入会権行使の慣習は廃絶したものと云うべく、かようにして本件山林は最早入会権の対象として存在しなくなつたものである。」と述べ、被控訴人等訴訟代理人において「本件山林は原審以来主張の如く、伊良沢部落有にかかる同部落民のみの入会山であつて、共有の性質を有する入会権に属する。即ち住民の属する部落の所有地盤の上に、その部落民が行使する入会権であるから、その行使には何等の制約を受けず、入会権者の総意によつて一時入会を停止して植林をなし、従前の自然木と共にこれを育成し、将来その総意によつて伐採し平等に分配する等、従前の慣習を変更することもできるし、この点何等不合理ではないと信ずる。そしてこのことは単なる入会権行使の一時の停止に過ぎず、これによつて入会権行使の慣習は廃絶し、入会権そのものまで消滅したとする控訴人の主張は、理由のないものである。」と述べ(その他当事者双方は当審において準備書面を提出して縷々弁論するところあるも、特に新たな事実上の主張をするものでないから、その摘示を省略する)た外は、原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。
<立証省略>
理由
当裁判所は、当審でなされた新たな証拠調の結果を斟酌するも、左記の点を附加する外は、原判決説示と同一理由により、被控訴人等の本訴請求は原判決主文第一項表示の限度において、これを認容すべきものと判断する。従つて原判決理由(ただし一、を除く)に記載する事実の認定並びに法律上の判断を、当裁判所の判決理由としてここに引用する。
附加する点は左のとおりである。
一、控訴人等は、本件山林は被控訴人等主張の如き入会山林でなく、明治十三年頃当時の伊良沢部落民二十名が、同人等及び木曾沢部落民二十一名の共有であつたのを、後者の持分を譲受け、爾後伊良沢部落民二十名の共有山林となつたものである旨主張し、この点に関する最も有力な証拠として、乙第三号証の一、二を提出援用しているが、仮りに同号証の成立を認め得るとしても、成立に争のない甲第一号証によれば、本件山林は現に土地台帳上伊良沢部落所有として登載されて居り、その他原判決が本件入会権の存否に関する事実の認定に際し引用しているすべての証拠と対比して考うるときは、本件山林が同号証の二の買受連名簿に記載してある二十名の者のみの共有に属するとは、遽かに断じ難いところである。
二、次に控訴人等は、大正二年頃一旦本件山林の内番外地を除いた部分を四等分し、当時の共有者二十名が五人一組となり各その四分の一宛を共有することに定めたが、後にこれを二等分し、十人一組がその二分の一ずつを共有することにして共有分割をし、更に同年三月七日頃右共有者全員で、乙第二号証の一記載のような規約を作成合意したものであると主張し、同号証の第六条、第七条の記載を援用して、既に右規約成立前に割地確定してあつた本件山林については、新戸の加盟は許されない趣旨であると抗争するのであるが、右乙第二号証の一の作成経過及び前記共有分割の有無に関する当裁判所の判断も、原判決のそれ(九枚目記録第三七四丁表一行目から九行目まで)と見解を同じくするものであつて、右乙第二号証の一の記載を取上げて、右控訴人等主張事実を肯定する資料とはなし難いものである。
三、当裁判所の引用にかかる原判決の認定によれば、本件山林は控訴人等主張の伊良沢部落民二十名のみの共有であつたのでなく、明治十三年以降伊良沢部落民のみの入会山林として、慣習により伊良沢部落民が入会い立木等の採収などの使用収益をしてきたものであつた事実を判定し、ただしその地盤の所有権が伊良沢部落に属するか、同部落民に属するか、また共有の性質を有する入会権かどうかの判断は、しばらく措くとして、その後明治四十年頃から同部落民中分家して新戸を創立するものが生じたため、従前の入会権者であつた旧戸の者の総意により従前の部落民たる旧戸から創立せられた新戸の者を加盟させること及びその方法について協定をしたこと、並びに明治四十三年頃当時の入会権者の総意により、入会を一時停止し自然林に補植をなし、相当年限育成した上伐採して、入会権者全員平等に分配すべきことを定めて現在に至つたものであることを、認定しているのであつて、入会権者たる部落民の総意によるかかる協定は、本来の慣習による入会権の内容そのものを変更したものでなく、単にその行使方法についての協定に過ぎないから、地盤の所有権が部落に属するか、部落民に属するか、本件入会権が共有の性質を有する入会権であるかどうかの判定を俟つまでもなく、かような総意による協定は少くとも当事者間には有効として拘束力を有すべく、この協定の実施により入会権の行使が一時停止せられても、慣習による入会権が廃絶したものと謂うことはできないから、この点に関する控訴人等の主張は理由がない。
以上説示の理由により、被控訴人等の本訴請求を原判決主文第一項表示の限度においてこれを認容した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条に則り本件各控訴を棄却すべく、控訴費用の負担につき、同法第九十五条、第八十八条、第九十三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)